前編からの続き、後編です。
奏者の方とムリヤリ仲良くなって、自分でイベントを企画することにしてみました。同時に、「俺は旅に出るよ」と宣言していたのを撤回し、大急ぎで新居を探しました。いまは、旅に出るよりもこの体験を誰かに伝えたい、そう強く思いました。
当時はまだクリスタルボウルという楽器の知名度が低く、さらに「寝ながら聞く」という特殊な内容だったため、イベント会場選びは難航しました。
いわゆるライブハウスやクラブスペースだと、音は出せるけど寝転ぶには向いていない。映画館やコンサートホールだと、イスがあるから寝転べない。公民館の和室みたいなところだと、音は出せないし、何か安っぽい印象になってしまう。
そもそも、1枚の写真も録音も動画もないまま、「とにかくすごい体験だったんだよ!」と強くアピールしまくるのは大変でした。
そうした中で、とある出版社が所有してるサロンスペースを借りられることになりました。音も出せるし、作られたばかりなので清潔感もあり、うん、ここならお願いしても大丈夫そうだと思いました。
友達づてに告知を行い、なんとか10人くらい集まったように記憶しています。
最初のときと同じく、階段の要所要所へインセンスを配置し、意識を高められるような導線を作りました。
そのころの演奏は20分くらいのを1回やるだけでした。「鳴らしすぎでtoo muchになるのが一番危険」という信念を学びました。
1回目のイベントは大好評でした。これで、自分の中でも「この体験は間違いない」という確信を持つことができました。
「またやって欲しい」という声もあったし、数ヶ月後に2回目を企画しました。
1回目のときは友人つながりが多かったけれど、今度は会場を広いヨガスタジオに変更し、「幅広く告知したらどんなお客さんが集まるのか」という実験を行いました。
集まったのは30人くらい。ヨガやヒーリングに興味のある女性が多く、「クリスタルボウル」という名前を知っている人も何人かいました。
ここで私は、初めてクリスタルボウルの演奏を録音しました。
その音源は、いまでも大切にして、何かに迷ったときには聞き返しています。自分で演奏をするようになってからも、この音源からたくさんのことを学ぶと同時に、「どうやったらこんな音が出せるんだろう」と、大いに悩まされる原因となりました(また、ふたりで演奏しているから腕が4本使えるのが本当にうらやましく、一時期はひとりでマレットを4本持って演奏できないかと本気で練習しました)。
屋内で2回のイベントを行った次は、どうしてもやってみたかった「お泊まりスタイルでの野外イベント」を企画しました。こちらは「キャンプ場を貸し切りにする」という高いハードルがありました。
会場に選んだのは、南伊豆にある「テラ・憩いの里」。2000年の年末に、友人がそこで年越しパーティーみたいなのを企画していて、冬なのに暖かくて居心地がよかったのを覚えていたため、オファーしてみました。
そしてここで、まったく予想していなかった事実を知らされます。
「クリスタルボウルなら、数年前にシスター・バッカという女性の方が来日したときに演奏してもらったことがありますよ」
・・・なんと、私とクリスタルボウルの出会いを作ってくれた奏者のおふたりの師匠である、シスター・バッカ(現在はAwahoshiに改名)がテラ・憩いの里で演奏をしていたと!!!!!!!!
運命の素晴らしさにココロが振るわされました。ここでやるしかない、と思いました。
野外イベントは20人くらい集まり、森の中でクリスタルボウルを演奏し、焚き火でVEGAN料理を作り、お酒もタバコも、大きな音もない、笑顔の溢れる、私が本当に理想としている形を実現することができました。
このイベントをキッカケに、クリスタルボウルの演奏を始めた友人もいます。
私とクリスタルボウルの出会いは、とても幸せな出会い方だったと本当に思います。演奏方法は習っていないけど、たくさんのことを学ばせてもらいました。「場所とお客さんをセッティングするんでやってください」なんていうムリヤリなお願いに応じていただき、あっちやこっちで演奏してもらいました。
当時の私は、まだ自分で演奏を始めるとも思ってなかったし、本当に単純に、純粋に、「この体験を伝えたい」と考えていました。そして、目の前にいる人たちが驚いたり喜んだりしてくれるのを見ているのが幸せでした。採算もほとんど考えていなかったので、イベントが黒字になったことは一度もありませんでした。
そのころの感覚は、いまも大きくは変わっていません。私は「世界を変える!」というような目標は持っていません。目の前にいる10人、多いときで20人、そのくらいの人たちへ、「みんな」ではなく「誰か」に体験を届け、ささやかだけど心地よいと感じてもらえること、そして、そんな体験(これはクリスタルボウルに限らず、です)は誰でも作れるということに気づいてもらうこと、それが私の目標です。
かつて、深い瞑想をしていたときに、こんな夢を見ました。
大きな川の畔に私が座っていると、頭上から「神」のような声が聞こえてきました。その声は、この川の流れを変えてみせよと伝えています。
私は大きな板を持ってきて川をせき止めようとしましたが、簡単に溢れてしまいました。「こんなのムリだよ!」と天に向かって叫びました。
そこで「神」のようなものから伝えられたのは、とてもシンプルな答えでした。
川へ小石を放り込んでみよ、と。その小石は、ただの小石かもしれないけれど、やがてその小石に次の小石が重なり、苔が生え、魚が巣を作り、また次の石が重なり、いつか川の流れは変わっていく。せき止める力なんて不要だから、まず、流れを変えたいなら小石を放り込むことから始めよ、と伝えられました。
・・・私の投げ込んだ小石が、いまどんな状態にあるのかはまだまだ分かりませんが、あなたがこの小石に引っかかってくれたなら、私は嬉しく思います。そして、よい体験を届けられるように、最初の感動に失礼がないように、これからもまた修行を続けていきます。
(おしまい)