先日、こんな質問をいただきました。
「絶対音にこだわりながらクリスタルボウルを揃えていますが、どこか和音がアンバランスに聞こえるのです。どうしてですか?」
えーと・・・これが本当に長くてややこしい話なので・・・じっくりブログでご紹介します。
まず、クリスタルボウルの音階とピッチ・絶対音という存在について。
クリスタルボウルにはひとつずつ「ドレミファソラシ」の音階があります。半音(#)も含めて、1オクターブで12個の音ですね。音階があるから、ピアノやギターと同じように複数の音(=複数のボウル)を同時に鳴らすと「ドミソ」や「レファラ」といった和音を作ることができます。
ただし、クリスタルボウルは製造時・製造後に細かく音程を調整することができないので、同じ「ド」のボウルでも微妙な音のズレを持っています(ピアノだと調律師さんに調律してもらったり、ギターだと弦の張りでチューニングできますが、ボウルにはそういった機構がありません)。
そのズレを「ピッチ」と呼び、「セント」という単位の数値で表し、ピッチが±で100セント変わると半音変わります。
ひとまず、ここまでのまとめ。
- クリスタルボウルにはひとつずつ音階がある
- 音程は厳密な調整ができないので微妙にズレていることがある
- ズレを「ピッチ」と呼び、セントという単位の数値で表している(±100セントで半音変わる)
なので、「これはB(シ)のボウルです!」と言われても、「B -49」だと、半音下の「A#(ラ#)」に近く聞こえるし、「B +49」だと半音上の「C)ド)」に近く聞こえます(B +60というような表記はしません。その場合はC -40になります)。「B」という音階の表記であっても、ピッチのズレによっては耳に聞こえる音はすっっっごく変わって聞こえるのです。
実際の音で聞いてみましょう。どちらも同じ8インチのサイズです。
まず、こちらが「B -45」です↓
そして、こちらが「B +48」です↓
音の高さがかなり違って聞こえませんか? でも、クリスタルボウルの世界ではどちらも「Bのボウル」として販売されるものです。そのため、ピッチの数値を考慮せずに音階(ドレミファソラシ)だけでボウルを揃えてしまうと、実際に鳴らしたときの音がバラバラで、和音がキレイに響かない恐れがあります。
最後に「B +8」です↓
「B +8」のように、ピッチのズレが±10以内のボウルは、ピアノやギターで使われるような音(この場合だとB)に限りなく近いということで「絶対音」と呼ばれ、少し特別な扱いをされています。
長くなってきたので、もうひとつまとめ。
- ピッチのズレが大きいと、音はかなり違って聞こえる
- ピッチのズレが大きくても、基準範囲内なら同じ音階として販売される
- ピッチにズレがあると、複数を鳴らしたときの和音がキレイに響かない恐れがある
- ピッチのズレが基準値に限りなく近いもの(±10以内)は「絶対音」と呼ばれている
ようやく本題に入っていきます。
「絶対音にこだわりながらクリスタルボウルを揃えていますが、どこか和音がアンバランスに聞こえるのです。どうしてですか?」
につきまして・・・
たしかに、前述の話を踏まえると、絶対音のボウルであれば個々のピッチのズレが少ないので、和音もキレイに聞こえそうなものです。
しかし、実際はそう簡単にもいきません・・・。
絶対音のボウルであっても、その許容範囲は±10です。となると、最大で20のズレがあります。
20違うとどのくらい違って聞こえるかというと、こちらが「C +25」です↓
そして、こちらが「C +43」です↓
※「C +25」と「C +43」は絶対音ではありません。ピッチの違いを体感いただくための見本として掲載しています
20違うと、ちょっと違って聞こえませんか?
さらに・・・
もうひとつ難しいお話で、そもそも論として、クリスタルボウルの音階を決めている「平均律」は和音が濁りがちです。
これもどんどん長くなるから、また別のブログで書くかもしれませんが・・・
たとえば「C ±0」のボウルと本当に響き合う「E」の音(3度の音)は「E ±0」ではなく、「E -14」ですし、「G」の音(5度の音)は「G ±0」ではなく、「G +2」です(純正律という考え方)。
ただ、ここでさらにややこしいのが、クリスタルボウルの音は「うねり」の要素を持っており、電子音のような単純な「ピー」という音ではなく、「こわわ〜〜〜〜ん」と鳴るために、そもそも細かなピッチは重要ではないという見方もあり・・・
ぶっちゃけ、クリスタルボウルに「アタマで考えられる正解」は存在しないと私は考えています。
「絶対音だから大丈夫」とか「ピッチの数値が同じだから大丈夫」というような考えだけでは、絶対音の許容範囲の要素とか、平均律の要素とか、うねりの要素とかで、期待通りにいかないかもしれません。
実際に耳で聞いていくしかないため、私もクリスタルボウルのセット商品を作るときには、たくさんのボウルを鳴らして響きを確認しています。
この作業が本当に楽しくて難しくて、同じ音階でもピッチが少しでも違ったらヘンな和音に聞こえるし、かといってピッチの数が近いもの同士ならキレイな和音になるというわけでもなく(平均律ゆえ)、とにかく鳴らして耳で確認するしかありません。
クリスタルボウルの歴史は始まったばかりなので、さまざまな考え方の奏者がそれぞれの理想を求めて切磋琢磨している最中ではありますが、私は「音として聞いてキレイ」という点も大切にしたいと考えています。気持ち悪い音をパワフルに聞かされるのは苦手です。
きちんと耳で聞いて、自分の感覚のすべてを使って(アタマだけじゃなく)、美しさを求めてみましょう。購入するときは必ず試聴を!
ぜひ、あなただけの美しい音を見つけてみてください。
最後のまとめ。
- 絶対音だから何でも大丈夫ということではない
- 耳で聞きながら確認するのが一番
- 信頼できる販売店・販売者からのセット購入も
おまけの注意喚起です
メルカリやアマゾンなどでクリスタルボウルのフルセット(7音セット)が売られていることがあります。フルセットなら7つの音がいきなり揃うから演奏しやすいはず♪ と思いきや・・・
個々のピッチの数値も分からず、試聴もできないままに買ってしまうと、ぜんぜんキレイなハーモニーじゃなかったときに、なまじっか7つもあるので追加購入や買い換えが困難になると思います。
ピッチも分からず試聴できないクリスタルボウルの購入は、個人的にはオススメしません。フルセットなんて(きちんと響き合うことまで考慮していたら)そんなにヒョイヒョイ完成するものじゃないと思います。私のざっくりな感覚だと、100個のボウルがあっても、作れるセット(フルセットではなく、3つ4つのセット)はせいぜい5セットくらい、フルセットは半年にひとつ完成するかどうか・・・です。
信頼できる販売店・販売者からのセット購入が一番よいと思います。私もその期待に応えるべく、あれやこれやと悩みながらセットを作っています。