クリスタルボウルは何度で作られる?華氏と摂氏の混同に注意!

クリスタルボウルはシリカ(自然界で結晶化すると水晶になる)を約2,000℃で加熱・溶融し、黒鉛の型に流し込んで冷却、製造しています。

このことについて、まれに日本語のブログ等で「4,000度で溶かしている」という記述を目にすることがあり・・・混乱の元となるため、気をつけたいポイントをご紹介します。

華氏と摂氏の違い

クリスタルボウルのメーカーが多数存在するアメリカでは、温度を「華氏(°F)」で表すのが一般的です。海外旅行でアメリカに到着して町中の温度計を見たら「80°F」みたいに表示されていてビックリした経験をお持ちの方もおられるのではないでしょうか。

一方、日本では温度を「摂氏(℃)」で表すのが一般的です。前述の華氏80°Fは摂氏26℃となります。

国や文化的な背景で、単位はいろいろな種類があります。距離をマイルで表したり、長さをインチで表したり、重さをポンドで表すようなことです(アメリカと日本が違いすぎているというのもあります)。

なお、華氏から摂氏への変換は若干ややこしい数式を用いるため、1マイルは約1.6km、100マイルなら約160kmというような単純な計算がしづらいです。

4,000度の根拠

日本語のブログで「クリスタルボウルは4,000度で・・・」と紹介された根拠は、「4,000 degrees(度)」という英語の記述をそのまま翻訳してしまったためだと思われます。アメリカ人がアメリカ向けに書いている情報であれば、彼らの文化的な背景は華氏なので、4,000度でも間違いなく通じるでしょう。

ただ、その情報を日本で伝えるのであれば、日本人に馴染みのある摂氏へ変換しないと混乱の元となってしまいます。気温が26℃なのに「今日は80度あるね!」と言うようなものです。

海外でも丁寧なメディアはちゃんと「華氏」って書いているんですよね。以下は、クリスタルトーンズ社の共同創設者・Lupito氏について書かれた一文です。

Originally, Utz and Crystal Tones cofounder William “Lupito” Jones only made the Crystal Singing Bowls from pure quartz (heating natural quartz up to 4,000 degrees Fahrenheit, its melting point, and pouring it into a graphite mold where it cools and hardens).

引用元:Why Are Crystal Singing Bowls Everywhere Lately? | HuffPost

ざっくり翻訳↓

当初、Utz(クリスタルトーンズ社のもうひとりの創設者・ポール氏のこと)とルピト氏は、純粋な石英のみのクリスタルボウルを製造していました(天然の石英を融点である華氏4,000度まで加熱し、それを黒鉛の型に流し込んで冷却し固めます)。

↑ちゃんと「4,000 degrees Fahrenheit」と、華氏(Fahrenheit)であることが記載されています。

華氏の4,000°Fを摂氏に換算すると約2,204℃となります。日本語で日本人向けに情報を発信するのであれば、馴染みのある摂氏に換算し「クリスタルボウルは約2,000度で作られる」と書いた方が親切だと思います。

なぜ混同するとマズイのか

「別に華氏でも摂氏でもいいじゃん」と思われるかもしれませんが、私はできれば細部にまでこだわりたいと考えています。

摂氏4,000℃とはどのような熱かというと、原爆が炸裂したときの温度に匹敵し、太陽の黒点の温度と同じになります。クリスタルボウルの原材料であるシリカの融点は摂氏1,650℃、沸点は摂氏2,230℃だから、摂氏4,000℃だと蒸発して消えてしまいます。

こんなシチュエーションを想像してみましょう。

とある科学好きな少年が母親に連れられてクリスタルボウルの演奏会にやってきました。そこでは、奏者さんが「クリスタルボウルは4,000度で水晶を溶かして・・・」と説明しています。

少年は混乱します。4,000度? そんな高熱をどうやって作りだし、そんな高熱に耐えられる素材って何があるんだ?

その混乱は奏者への不信につながり、クリスタルボウルの体験を弱めてしまいます。

世の中で「胡散臭い」とされているものの多くは、科学的根拠が小学生レベルでバラバラなものです。ツッコミ所があると、どうしても胡散臭くなります。もちろん、科学がすべてを解き明かしているとは私も思いませんが、確実に分かっていることは正確な表現をすべきです。

クリスタルボウルの歴史は始まったばかりであり、多くの人がこれからクリスタルボウルに出会います。

そのとき、少しでも正しい情報を伝えていくことが我々の役割ではないでしょうか。

また、奏者であれば、何か少しでもヘンなことがあれば敏感に感じ取り、原因や背景を追求する姿勢というのはボウルの演奏でも大切なことです。

そして、相手に寄り添う表現をすること。

今回の件も「私はふだんから華氏を基準に生きているのよ!私の中で4,000度と言えば華氏なのよ!」というのであれば間違いではないけれど、日本人向けに情報を発信するのであれば、「私」基準のエゴを通さず、相手に寄り添う表現が大事だと思います。

というわけで!4,000度と書いている皆さん、今一度情報の精査を・・・もし私が間違っていれば教えてくださいませ・・・。

Magali Luhan

水晶から作られた楽器「クリスタルボウル」を使い、心地よい音色で心身に変化をもたらすサウンド・バス アーティスト。東京・浅草橋「studio PLAYA」運営、Crystal Sound Laboratory代表。

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